第33回 THE NAMBA2
目の前に椅子を用意して、片足を乗せ立ちあがってみましょう。例えば、左足を乗せ右肩を前にして、つまり体幹をねじって立ち上がってみる。次に左足を乗せ、左肩を前にして立ちあがってみる。この2つの動作を比較してみると、どちらが立ち上がりやすいかすぐわかるでしょう。
先日、白鵬の6連覇で幕を閉じた大相撲の初場所。すり足で前に進む体の使い方や、てっぽうなどの稽古はナンバですね。スケートも左右の脚にしっかり体重を乗せて滑るのでこれもナンバです。
ではナンバとはどういうことなのか?
ナンバはナンバンとも言われて、一般的には右(左)脚が出るとき、右(左)腕が出る歩行のことを指しますが、日本舞踊においては、同側の手足が同時に同方向に動くことを「ナンバン」といい、忌み嫌っているといいます。
また、ナンバは農耕生産の基本姿勢からきていて(鋤を振り上げた形)、農耕民族としての日本人に伝統として染みついた動きであり、現代でも伝統芸能には色濃く残っているといいます。泥のようなぬかるみで農作業するときや雪で滑りやすい場所を歩くときは、腕を振ったり腰をひねったりはしませんね。現代でも日常の動作の中で、ナンバ歩きをすることはよくあると思います。
~ ナンバの語源 ~
南蛮人のような見慣れないもの、普通でないものという意味からきた『南蛮説』と、昔大阪の難波に有名な接骨院があって、少し違った者を見ると人々は「なんば行きや」と言ったことが踊りに流用されたとする『難波説』など、諸説あるようです。 どちらにしても「変わった、違った」という意味の“たとえ”として「南蛮」「難波」の言葉を使い、同側の手足が同時に出る動きを一般に「ナンバ」という言葉を流用して使ったということではないかと言われています。
西洋のバレエやダンスはナンバの動きが多いため、力強く活発であり、日本舞踊はナンバを忌み嫌うために不活発な印象を与え、これが事実なら、西洋の舞踊にしばしば見られるナンバの動きが、日本舞踊に現れた時、「それは南蛮だ」というようになったとしても不思議ではないということになります。
どうも「ナンバ」はやってはいけない、よくない否定的な意味を持つ言葉、動作のようですね。小学生がキンチョーして同側が動く歩き方をしてからかわれたりすれば、やってはいけない歩き方として認識されます。英語には「ナンバ」に相当する言葉が無いように、西洋人は特に「ナンバ」という動作を意識しているような様子は見当たりません。我々日本人も同様です。
しかし、いざ運動になると左右交互に体を使うことをあまり意識しすぎて、つまり体を捻ることによって動きを生み出そうとしすぎているのではないか?ナンバを利用して動いてもよいのではないか?むしろナンバで動くべき場面がもっとあったほうがよいのではないかということです。上手なダンサーは、意識せず自然とナンバの動きを利用しているので、敢えてナンバなどとは言わないのでしょう。しかし、自分は意識的にナンバを取り入れて踊ってみたら実に踊りやすくなったのです。
次回からは、どのようにナンバをダンス取り入れたらよいか具体的に説明していきたいと思います。
参考文献
甲野善紀、中島章夫(1997)『縁の森 武術稽古研究会 松聲館の歩み』合気ニュース
藤本明彦
(2011年2月1日更新)